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〜自我の目覚めと他者と繋がる喜びを、躍動感溢れる画面構成と色彩で描いた傑作〜

 森に住み、歌とアコーディオンが上手な僕

(=ユックリ) 

 町に住み、ダンスが得意な私 

(=ジョジョニ) 

ふと気がつくと二人は一緒に踊っていて、いつの間にか知らない町に辿り着く。

 祭りの真っ只中、花火(恋のドキドキ感)があがる中を更に踊り続け、ふと気付けば誰もいなくなっていて、帰路につく。 

ユックリは少し歌が上手に、ジョジョ二は少しダンスが上手になったような気がし、また明日がやってくる。

自分の得意な事に夢中になっていたら、ゆっくりと徐々に、周りの景色、さらには自分の中の景色もが変わっていく。


人にはそれぞれ得意なことがあり、価値観があること! 

自分と真剣に向き合う中で、他者の存在を知り、お互いに溶け合い幸せを知り、また孤独の中に還っていくこと!

 生きていくとは、その繰返しであること! 

この本の凄い所は、これらについて教訓めいたお話ではなく体感的に教えてくれる所です。


「ユックリ」と「ジョジョ二」を対比的に描いた構図と「フーバ・トリロリ」「クルリクル」といった擬音語が生み出すリズム・・・

躍動感溢れる絵、ダンスと祭りの高揚感を感じさせる明るい色彩・・・

紙面を飛び越えて、二人の物語が色鮮やかに展開されます。


自我の目覚めと他者と繋がる喜びを、恋の始まりの甘酸っぱさと共に描いた傑作!

最後の余韻もまた味わい深いので、ぜひご一読下さい。


ユックリとジョジョニ(イメージの森)

 作・絵:荒井良二 

〜奇抜な絵と色鮮やかな色彩で描かれる、ワクワクと想像力の爆発〜

私個人の話ですが、紹介本の類で今まで目にしたことがなかった本作。

ぜひ沢山の方に読んでいただきたい傑作です。


犬のフンザ君がやっとおもちゃの船を完成し眠ると、その船に乗り込んで、ブラッキンダーが夜の冒険に出かけます。


フンザ君の机のインク壺から出てきた真っ黒なブラッキン。

鉢植えサボテンのキンダーちゃん。

二人合わせてブラッキンダー。


夜の空を飛び、夜の湖、砂漠…、最後はフンザ君の家の窓から机の上に着陸。

フンザ君が目覚めると、机の上におかしなえ?が描いてある。


夜の闇はどこまでも続いている。

でも、この本で描かれる夜は、暗く深く怖い闇ではありません。

まるで漆黒のキャンバスに浮かぶ色鮮やかなワクワクの好奇心と想像力の煌めき!

それは果てしなく広がり、爆発し、夜が明けフンザ君が目覚めた後も、確かにその軌跡を「おかしなえ?」として残します。


奇抜な絵とヴィヴィッドな色彩が、凄まじい推進力で夜の闇をキラキラと駆け巡る様は、大人や世の中の既成概念なんて飛び越えてどこまでも羽ばたけと、伝えているようです。


理屈でははかれない、想像力の源水を育ててくれるようなこういう本に、幼少期からぜひ親しんでおきたい!

そう思わせてくれる傑作です。


ブラッキンダー

作・絵:スズキコージ

〜モノクロの静かな「もりのなか亅で、心の色彩と情緒を育む〜 

 第3回は、ユーモラスな動物の表情も可愛く、読後、何ともあたたかい気持ちに包まれる本書をご紹介します。 


渡辺茂男さんが素晴らしい書評をされているので、全文の中から一部抜粋します。


  『もりのなか』は、黒のコンテだけで描かれた、白黒の静かな絵本です。

幼いぼくが主人公で、一人で森へ散歩にいき、いろいろなどうぶつに出会い、みんなでたのしくあそびます。

そこには、くらいすずしい木陰ばかりでなく、小川も、陽のあたるピクニックの広場もあります。

読者の幼い子どもたちは、主人公の男の子になりきって、森の中を散歩しながら、それぞれの情景で、その情景に一ばんふさわしい色を感じ、光を感じ、森の香りにひたります。

それは、クレヨンや絵の具の色だけで表現することのできない微妙な色彩であり、時々刻々に、光とともに、動きとともに、変化していく色彩なのです。

子どもの成長とともに変化していく色彩であり、香りであり、情緒でもあるのです。 

 最後にかくれんぼをやり、ぼくが鬼になり、目をあけると、どうぶつは、みんなかくれてしまい、おとうさんが迎えにきています。 

 私は、この絵本が大好きなのですが、とくに結末が好きで、ぼくのおとうさんのやさしさ、それは、エッツさんのやさしさでもあり、また、エッツさんが、ご自分のおとうさんに感じられたやさしさを、しみじみと感ずるからです。  

〜渡辺茂男『心に緑の種をまく』より〜 


 読むと、思わず公園や近所の木立の中で「もりのなか亅ごっこしたくなる、親子の遊びも豊かにしてくれる素敵な一冊です! 


もりのなか 

絵・文 マリー・ホール・エッツ 

 訳 まさき るりこ

〜四季のめぐりを通して、自然の摂理と親子の営みを学ぶ〜 

第2回は、ドイツ古典絵本の傑作にして、まさに絵本芸術と呼ぶにふさわしい本書をご紹介します。

 まず、特筆すべきは絵の素晴らしさ! 植物や虫の繊細な造形・擬人化された妖精達の愛らしい姿は、あまりに美しく、何時間でも見ていられるほどです(笑)。 

ストーリーは非常にシンプル。 

大地のかあさんに起こされたねっこぼっこ達は、地上の世界へ行く準備を始めます。 春になると喜び勇んで外の世界へ繰り出し、木枯らし吹く秋になると、また大地のかあさんの寝床へ帰っていきます。 

大地のかあさんの広大な温もり… 

幼い子ども達の命の煌めき… 

秋になれば大地の母さんが抱きしめてくれると分かっているから、ねっこぼっこ達はこんなにいきいきと異世界を冒険できるのでしょうか。 

5歳の娘も気に入っていて、「この黄色い服の子(ねっこぼっこ)が自分」とか言いながら読んでいます。 

せかせかした日常から離脱して、ゆっくり親子の時間を味わえる、お薦めの一冊です。 


ねっこぼっこ

作・絵:ジビュレ・フォン・オルファース

訳:秦 理絵子

記念すべき第一回は、大好きな酒井駒子さんの本書を紹介します。

何故なら、凝縮された言葉の強さといい、デッサン力の高い絵の美しさといい、芸術の機微を理解する心を育むのにこれ以上の本はないと思うからです。

虫の視点、少年の視点、時空を超えた視点からなる3つの短い物語で構成された極めて芸術性の高い作品です。

因みにうちの子は、三歳時には読みきかせても興味なし、五歳近くなったら急に好んで読んでと持ってくるようになりました。

主人公の少女が行方知れずになる、という最後が何とも寂寞とした読後感を残しますが、うちの子に関しては特に怖いとは感じていないようです。


金曜日の砂糖ちゃん

絵・文:酒井駒子

2003年 偕成社